ユーゴ物語

[A第2話]1億5千万円の売上

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「俺の人生、どこで間違っちゃったんだろう・・・」
泣きはらした目で、夕日を眺めながらそう思った。

これから語るのは数年前に起きた、ノンフィクション物語です。


ユーゴ物語 -自己犠牲編-
[第1話]どこで人生、間違えたのだろう
[第2話]1億5千万円の売上 ←いまここ
[第3話]景色が灰色になった日
[第4話]海外でホームレス?
[第5話]灰色の人生に彩りを
[第6話] 人生のパターン


 

天井のシミを数える日々

東京生活が始まった。
板橋区・7万円のワンルームマンション。
初めての一人暮らしにはちょうどいいだろう。

仕事はこれから探す。
とは言っても就職活動をするつもりはない。
そこはしっかり計画がある。

Web制作会社に潜り込むつもりだ。
現場ではどう作っていて、どういう価値を提供しているのか。
それを知って自分のスキルにしたい。
詐欺師じゃない自分になりたかった。

さっそく派遣会社に登録する。
大手3社くらい登録しておいて、反応の早いところで決めれば良い。

反応を待っている間に生活を整える。
100万用意したお金はもう半分しかない。
入居費用だけでかなり持って行かれた。

『貯めたお金が減ること』=『1年必死に働いたことが無になっていく』
そんな怖さを感じていた。

冷静に考えれば、まだ50万あるので
しばらくやっていけるはずなのに

「生きるって金がかかるんだな」

気づけば食卓には
もやし炒め・漬物・ごはんが並んでいた。

そして頭によぎるのはこの言葉。
「時代に取り残されたら食っていけない」

ベッドに横になっても眠れない。
胸がザワザワして、手がカタカタ震える。

その時、やっと理解した。
「これはワーカーホリック(仕事中毒)だ」
仕事をしていないと不安が襲ってくる。
休んでいるだけで気が狂いそうになる。

いつからそうなったかわからないけど
引っ越すよりずっと前だということはわかる。

毎晩ベッドで天井のシミを数えるようになった。
何かしているうちは多少落ち着く。

数え疲れて眠るために
今日も1つ1つ、シミを数える・・・。

現場で全く歯がたたない

派遣会社からは数日後に連絡が来て、すんなり仕事に就けた。
時給は1200円、残業したら1.5倍だ。
これで最低でも18万円は保証された。

「君のデスクはここねー、何か足りないモノあったら言ってねー」

支給されたパソコンはMacだった。
ずっとWindowsしか使ってなかったので勝手がわからない。
現場は当然、Adobeのフォトショップやイラストレーター。
もちろんホームページビルダーなんて使ってない(笑)

「んー?大丈夫?できるー?」
「あっ、はいっ、ダイジョウブっす!」

専門学校に通っていた期間は半年だった。
その後も自己流で見よう見まねで作っていたので
もちろん制作の基本なんてわかってない。

「できません」なんて言えない。
先輩の画面を盗み見て必死にやり方を学ぶ。

相変わらずお金が減るのが怖いので
技術書も買わずに立ち読み。
頭に焼き付けて、家に帰って思い出しながら練習する。

もちろんそれぐらい買ってもよかったのだが
買うと気が済んで勉強しない不安があった。

(この勉強法は今から見ても素晴らしい『学んですぐ使う』が板についた)

どうせ夜寝付けないのだから、明け方まで練習する。
3時間睡眠の毎日が続いた。

半年も経てば、後から入ってくる後輩に
大きな顔ができるくらいになっていた。

辞めます、お世話になりました

いろんな制作の経験を積ませてもらった。
大手企業のWebサイトや、ポータル情報サイト。
今でも名前を言えば「知ってる!」と言う人がいる
十分な実績を積むことが出来た。

この現場でのノウハウも頭に叩き込んだ。

「辞めます、お世話になりました」

仕事中毒の自分にとって
すべてが生き残るための踏み台にしか見えてなかった。

「現場はここだけじゃない、他の現場には違ったノウハウがある」
「もうここで得られることはないなら用済みだ」
それぐらい酷いことを思っていたかもしれない。

派遣会社に連絡して、次の現場を紹介してもらった。
やはりあっさり仕事が決まった。業界が伸びていて供給が追いついてないのだ。

時給は1200円から1300円に上がった。
派遣は現場を移ったほうが時給が上がりやすい。

新しい現場では余裕でついていける。
「おお、今回の新人は即戦力だな!」

前職場のおかげなのに
自分の実力だと鼻にかけるかわいくない22歳。

余裕で仕事をしていると携帯が鳴った。
親くらいしか知らないはずなのに。

前の現場の上司からだった。

Wワークで寝るまもなく働く

「ちょっと手が足りないんだよー、助けてよー」
俺が抜けたせいで前の現場は大忙し。
外注するなら仕様を知ってる俺にというつもりだったらしい。

「いや、マズイです、就業時間中です」
「大丈夫だってー、バレないようにやってよ、得意でしょ?」
・・・バレてた。

それからWワークが始まった。
さすがに就業中は控えたが、終業後は打ち合わせで前現場に顔を出し
土日は自宅で制作作業に明け暮れた。

繁忙期は3日徹夜とかも少なくなかった。

相変わらずお金を使うのは怖くて
どんどん貯金の額は増えていった。

なぜか大企業でプレゼンする派遣社員

それ以降も1年に1度、現場を変え続けた。
学ぶためなので業種も少しずつ変えていった。

デザイン・プログラム・動画・ディレクション・マーケティング
できることの幅はどんどん増えていった。

次の現場は誰もが知る大企業N○○
今度はエンジニアとして派遣された。

大手町の一等地で、だだっ広いオフィス。
検索サイトのg●●と言えば分かる人は分かる。

大手のサラリーマン達と肩を並べていると
自分もすごくなったように勘違いしてしまう。

でもそこは大企業病に汚染されていた。
出世コースに乗ってる人以外は、全員ぬるかった。

休憩時間には愚痴が止まらない。
「そんな嫌なら辞めろ!」と何度も言いたくなったが
言ったところで当然辞めるわけは無い。

でもある時に面白いことに気づいた。
『愚痴は宝物』だということに。

「ウチは○○のリソースを持て余してるよなあ、使い方わかってない」
「上層部は自分から動かないからね、提案しないと何もやらないよね」

(それって、○○をもっと△△に活用しましょうって言えば動くってこと?)

自分が担当しているサービスはいろんな機能が眠っていて
その使い方を熟知するのがエンジニアの自分の仕事。

「もしかして○○って△△の使い方したらすごいことになりますか?」
ボスに聞いてみた。
「できるね、でも上層部はリスクを嫌うから」
「○○の機能を使ったらリスクはゼロになりますが・・・。」
「ほう、それならアリかも。ちょっと資料作ってみて」

気づいたら親会社のN○○東日本でプレゼンすることになっていた。

プレゼンするのは社員であるボスと同僚。
俺は資料を作ったご褒美として同席させてもらった。

ボス「じゃあこの部分、ユーゴくん説明して」
「えっ!?」

段取りと違うし、心の準備もできてないし
でも資料を作ったのは俺だから頭には入ってるし。

緊張で真っ白になりながらプレゼンした。
天下のN○○東日本で、派遣社員なのに・・・。

その結果、1億5千万円の年間契約が決まった。
ボスと同僚は大きく出世して、ボーナスが支給された。
当然、俺は何も貰えるわけもない。
でも・・・良かった!

「俺はもしかしたら、すごい人物なのかもしれない!」
天狗になる24歳のユーゴ。

しかし数日後、生死の境をさまようことになる。

意識朦朧の元旦

大手で働いていても相変わらずWワークは続けている。

仕事中毒は少しマシになり睡眠時間は伸びたものの
忙しい時は徹夜で頑張ることもある。

『どれだけ能力が高くても、時代に取り残されたら食っていけないんだ』

その言葉の恐怖から逃れるためだけに
走り続けた数年間。

昼間は大手企業で派遣社員。
夜と休日は、自分の制作会社で受託制作。

年末はどちらも繁忙期で、ヘトヘトになりながら仕事を終え
大晦日にベッドに倒れこんだ所までは覚えている。

目が覚めると、何か気配がおかしい。
体はピクリとも動かず、口の中はカサカサ。

枕元の時計を見ると『1月3日01:59AM』
倒れこんだのが1日の深夜だったから・・・
どうやら丸2日寝たきりだったようだ。

「何か食べなきゃ」
体を起こそうとするも・・・動かない。
まさしく糸の切れた人形だった。

「このままでは死んでしまう(時代に取り残されなくても)」
枕元にはペットボトルの水とサプリメント。
水は何日前のかわからない。

迷ってる余地はない!
ガブガブと口に放り込むと同時に意識が途絶えた。

 

ユーゴ、このまま死んでしまうのか?
第3話はもっと酷いことが起こります(笑)

■第3話はに続く


ユーゴ物語
[第1話]どこで人生、間違えたのだろう
[第2話]1億5千万円の売上  ←いまここ
[第3話]景色が灰色になった日
[第4話]海外でホームレス?
[第5話]灰色の人生に彩りを
[第6話] 人生のパターン


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