「俺の人生、どこで間違っちゃったんだろう・・・」
泣きはらした目で、夕日を眺めながらそう思った。
これから語るのは数年前に起きた、ノンフィクション物語です。
ユーゴ物語 -自己犠牲編-
[第1話]どこで人生、間違えたのだろう
[第2話]1億5千万円の売上
[第3話]景色が灰色になった日
[第4話]海外でホームレス？ ←いまここ
[第5話]灰色の人生に彩りを
[第6話] 人生のパターン
ズブズブと沈んでいく
また瀕死の状態でベッドで寝ている。
前回と違うのは、死にかけているのは体じゃなく心だ。
体が、心が重い。ベッドに寝ているはずなのに
ズブズブと沈んでいくような感覚がある。
身動きが取れないというより、動く気になれない。
そのまま地中に埋まって消えていくイメージばかり見える。
強烈な絶望感が全身を包む。
これがウツ症状だ。
正直、ウツなんて心の弱い人がなるものだと思っていた。
自分は強いので無縁のものだと思っていた。
なぜこんなことになっているのか理解できない。
『ウツは甘え』とか『ウツは心の風邪のようなもの』
という表現が有名ですが、間違った認識です。
適切な表現は『心の出血多量』です。
心は傷つきます。大怪我しての出血の場合もあるし
すり傷を大量にした場合の大怪我もある。
心が出血多量になると心身ともに動かなくなります。
もちろん、心の傷は薬でも時間でも治りません。
ウツにはもれなくパニック障害も併発します。
ニュースで「平山容疑者が・・・」という単語を聞いた瞬間。
動悸が止まらなくなる。汗が溢れ出してくる。
「そんなのウツのうちに入らない。甘えてないで早く仕事しろ」
平山さんの声が聞こえる。
「ユーゴくん、ウツになっちゃったの？ヤバイじゃん(笑)」
織田さんの声が聞こえる。
もちろん幻聴だ。
何かのトリガーが押されるたびに症状が出てくる。
当然、外に出るなんてできず
何日も何週間もベッドで寝たきりの日々を過ごす。
ウツのまま取締役に就任
そのまま何週間経ったかもわからない。
夜更けの食料調達以外は、怯えて隠れて生きてきた。
そうしていると携帯が鳴った。
母親でもあの女の子でもない。
勉強会で知り合った富山くんからだ。
ぶっちゃけそんなに交流があったわけでもない。
「新しくビジネスをキックオフするんだけど
ユーゴ、Web詳しかったよね？力貸してくれない？」
もうお察しかもしれないが
私は他人から頼られたらよほどでない限りNOと言わない。
行った先は赤坂のマンションの一室だった。
品川や新宿の恐ろしい場所じゃなくて良かった。
そこには富山くんと、メガネの４０代のおじさんがいた。
この伊東さんのおかげで社会復帰を果たすことになる。
伊東さんは４５歳にして心機一転
講演家デビューしてやっていこうとしているらしい。
よくわからないが、やれることは協力しようと思う。
「ユーゴちゃん、よろしくね！」
講演家が何かさっぱりわからないが
とりあえずサクッとWebを作る。
講演にはスタッフとして同行する。
この講演を何度も聞いたおかげで、営業の本質を掴むことができた。
早速、講演で聞いたことを使ってみると
どんどん商品が売れる。講演依頼が取れる。
（そうだよ、俺はやっぱりデキる人なんだよ！）
このあいだの悪夢は振り払うかのように
ここぞとばかりに成果を出していった。
『講演家の伊東』はどんどん知名度を上げていき
経済産業省の推奨講師や、大学で講義、出版と順調に成果を出していく。
後で知ったが、俺はその会社の取締役になっていたそうだ。
しかも給料は殆ど貰っていなかった(笑)
でも恨むどころか、いまでも恩を感じている。
この人がいなかったら、まだ寝たきりだったかもしれない。
ユーゴ悪魔になる
取締役としてバリバリやってると携帯が鳴った。
そう、次の展開だ。
「もしもし、ユーゴさん？」
前回、勉強会をお勧めしてくれた女の子だ。
『柿本さん』は大阪でWebデザイナーを目指していたので
Webの作り方を手取り足取り教えてあげたことがある。
その繋がりで前回も電話がかかってきていたのだ。
「いま大阪ですごい人と会ったんですよ！誰かわかります？」
「わかんねーし、テンション高くて意味わかんないし」
「じゃあちょっと替わりますね！」
「もしもし、ユーゴくん？すごいじゃん！有名人だね！」
「・・・織田さんですか」
いま一番話したくない相手だった。
逆恨みかもしれないけど、この人のせいで・・・という気持ちがあった。
「いやー、大阪のセミナーで隣になった女の子と盛り上がってね
お互いユーゴくん知ってるってビックリだよ！」
「あ・・・そうっすか・・・テンション高いっすね」
後日、改めて柿本さんから電話があった。
「東京進出しようと思うんです、ユーゴさん協力してください♪」
「あ・・・うん。まぁいいけど」
（頼られたら断らない男、ユーゴ）
柿本さんはWeb制作は辞めて
コーチングを主軸にビジネスをしているらしい。
「コンセプトが見つからないんです、何かアドバイスください♪」
「柿本さんは外見が可愛いから、コスプレしてサイト上で
天使と悪魔のお悩み相談室ってやったら売れると思うよ」
バカっぽいかもしれないけど、なかなか妙案だと思う。
「えー！うーん・・・・わかりました！ユーゴさん悪魔やってください」
「え？はぁ？俺が？」
自分が巻き込まれるなら絶対に出さない案だった。
でも頼られたら断らない男・・・。
「みんな、こんにちはー！天使です」
「おう・・・悪魔だ・・・。」
気づいたらサイト上じゃなく、リアルでコスプレをさせられていた。
『天使と悪魔の交流会』という、飲み会だった。
俺の人生、どこで間違っちゃったんだろう。
コーチングをビジネスにする
伊東さんと柿本さん、Wワークが始まった。
といっても伊東さんの方は少しずつ離れていった。
順調に盛り上がって退屈してきたのもあるが
柿本さんの巻き込み力がすごくて、そっちの仕事が増えたからだ。
いろんなイベントに巻き込まれただけでなく
個人的にも巻き込まれていった。
つまり、恋人として付き合うようになったのだ。
彼女のコーチング講座のアシスタントをするようになった。
何度も側で見ることで、コーチングを体得し自分もできるようになった。
営業もコーチングも体得した俺は
ここでもさらに成果を出していく。
「ねぇユーゴさん、会社組織にしたい」
「いや、まだ早くない？」
「『やると仮定して方法を考える』のと『できないと仮定して考える』のは大違いよ」
「・・・・確かに」
気づいたら法人化して、役員も４人に増えた。
バリバリの拡大路線なので、資金を間に合わせるのも必死だった。
「ねぇユーゴさん、結婚したい」
「えっ」
「やっぱり式は盛大にしたいよね。沢山の人を呼んで祝ってもらうの」
「はぁ・・・」
「そして新婚旅行は３ヶ月行きたい」
「法人化したばかりだし、社長と副社長が３ヶ月も抜けたらダメだと思う」
「『やると仮定して方法を考える』のと『できないと仮定して考える』のは大違いよ」
「・・・・。」
気づいたら、盛大に挙式をして、新婚旅行で飛行機に乗っていた。
自分でもよくお金を工面できたと思う・・・。
あわや海外でホームレス
やると仮定して方法が見えたら、必死になって実行した。
さすがに過労でヘトヘトで、機内では爆睡していた。
新婚旅行３ヶ月。
ニューヨークに45日、インドに45日という計画だった。
「先進国と発展途上国、両方を暮らしてみたい」
そんな夢物語を本当にやろうとする人がいるなんて。
お金が工面できたのは、ビジネスの成果もあるけど
FX投資で稼いだお金も大きかった。
資産家の朝田さんという方と仲良くなって
朝田さんのFX講座を主催して、お金を得つつ自分たちも実行したのだ。
ビジネスも投資も順調。
不可能に思える課題も乗り越えて3ヶ月の新婚旅行！
気分は完全に成功者である。
「やっぱ最初は贅沢にしたいよね」
NYの最初の宿は、証券取引所の正面の高級ホテルだった。
「ここが証券取引所かー！ニュースで見たことある」
「ビジネスマンが喧々諤々やってる、やっぱ本場はすごいなー」
ホテルに着いてテレビをつける。
「うわ！ドルがすごい暴落してる！」
「え！」
「ポジション解消しておいて良かった。俺は被害はゼロだよ」
「・・・・・。」
「え？もしかして・・・？」
ちょうどこの日、2007年サブプライム危機(リーマン・ショックの原因となる事件)
さっきビジネスマンが喧々諤々していたのは、現地でも異常な光景だったのです。
彼女のパソコンを開くと
マイナス150万円の文字が・・・。
もちろんこの150万円は、90日間の新婚旅行と
その後のビジネスの資金です。
「ユーゴさん、私もうムリ、あとヨロシク」パタっ
彼女は(倒れて？)寝てしまった。
パソコンに表示されているマイナスの数字は、刻一刻と増えていった。
寝たきりから復帰して大活躍と思いきや
このまま借金を抱えて海外でホームレスとなるのか？
ユーゴ物語
[第1話]どこで人生、間違えたのだろう
[第2話]1億5千万円の売上
[第3話]景色が灰色になった日
[第4話]海外でホームレス？ ←いまここ
[第5話]灰色の人生に彩りを
[第6話] 人生のパターン
