ユーゴ物語

[A第3話]景色が灰色になった日

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「俺の人生、どこで間違っちゃったんだろう・・・」
泣きはらした目で、夕日を眺めながらそう思った。

これから語るのは数年前に起きた、ノンフィクション物語です。


ユーゴ物語 -自己犠牲編-
[第1話]どこで人生、間違えたのだろう
[第2話]1億5千万円の売上
[第3話]景色が灰色になった日 ←いまここ
[第4話]海外でホームレス?
[第5話]灰色の人生に彩りを
[第6話] 人生のパターン


 

あわや孤独死

過労で死ぬのか?となったユーゴ24歳。
水とサプリでかろうじて命をつなぎ
次に目が覚めたのは次の日の日中だった。

「あ・・少し体が動く」
這いつくばるように体を引きずって冷蔵庫まで向かう。
ワンルームなのですぐそこのはずが
とてつもなく遠く感じる。

冷蔵庫の中にはロクなものがなかった。
人参と牛乳と、冷凍の肉。

さすがに冷凍はこの状態で食うと良くないので
人参をそのままかじり、牛乳で流し込む。
一瞬、意識が途切れそうになるが
「いまここで寝たらダメだ」

またベッドに這って戻りまた泥のように眠る。
こういう時、頭によぎるのはやっぱり母親だったりする。
「電話してみようかな・・」
そうよぎったまま、また意識が途切れる。

次に目が覚めたときは、だいぶ回復していた。
簡単な料理をして、なんとか命の危機は脱せたようだ。

「こんな生き方をしていたらダメだ」
恐怖から逃げるために仕事をするのではなく
もっと・・何か別のために仕事をしようと思った。

でもどうしていいかサッパリわからない。
その時、携帯が鳴った。母親ではなかった。

ちょっと前、親切にしてあげた女の子だった。
「もしもし?おー!久しぶり!
俺?俺は相変わらずかな。こないだも1億の売上作ったよ」
瀕死の病人とは思えない、完璧の演技で返事をする。

(実はこの人と数年後、結婚することになる。人生は不思議だ)

要件としては近況報告だった。
最近とても良いコミュニティに出会って、いい仲間に恵まれたそうだ。
東京にも支部が立ち上がるそうでお勧めされた。

ネットワークビジネスかと思ったがそうではないらしい。
この電話が、色んな意味で俺の人生をガラっと変えることになる。

人材コンサルとの出会い

勧められたコミュニティに行ってみる。
なんのことはない、サラリーマン達が学びを持ち寄る勉強会だ。

「ビジネス書に書いてあるようなことをネタに
交流や人の繋がりを求めて慰めあっているだけでしょ」
そんな可愛くない考えをする、ひねくれたユーゴ24歳。
でもそう言いつつも繋がりに飢えているので、実は心地よかったりする(笑)

そこ経由で出会ったのが『織田さん』という人。
「ユーゴくん、すごいねー!天才じゃん!」

きっと本心じゃないと思う。でもこの人の魂胆が知りたくて付き合っていた。
その人に別の人を紹介される。
「すっごい人だから、日本を変えるレベルの人だから、失礼のないようにね!」

連れて行かれたのは山手線沿線の雑居ビル。
『平山さん』というバリバリの営業マンが現れた。
「おー、よう来たな。まあ座り」口調はフランクだけど目が笑ってない。

バリバリの営業マンと面と向かって話す機会がなく
気づいたら120万の商品を買うことになっていた。

「良い物だけど、高いからムリすんなよ?」
「いや、これぐらいの金額なら一括でも払えますから!」

自尊心をくすぐる、よくある手にしっかりハマってしまった。
どうやら織田さんは平山さんの会社の営業マンだったようだ。

これだけじゃなかった。
複雑な気持ちで数日を過ごしていると、また携帯が鳴る。
「おー、元気か。今度は社長に会わせるから」
目が笑ってないバリバリ営業の平山さんだった。

今思うと、なぜ断らなかったのか。
NOと言わせない雰囲気があったのかもしれない。
いや、次の何かを探していたからだと思う。

念の為に先日買った商品を売っている会社を調べた。
ホームページはあるが、とりあえず用意した感。
ジャンルとしては人材コンサルティング業とだけわかった。

連れて行かれたのは品川の高層タワーオフィス。
「俺が唯一負けたのがこの社長だから・・・気をつけろよ?」
バリバリ平山にそう言われても。気のつけようがわからない。

社長室に通された。
39階から品川が一望できる大きな窓。
革張りの社長イスに誰かが座っている。
完全に逆光なので顔が見えない。

ヤ○ザが出て、とことん金を巻き上げられるのか
実業家が出て、大きなチャンスを掴めるのか。

人生初の平社員になる

その社長は意外と若くイケメンだった。
(やはり目は笑ってないが)

平井堅とガクトを混ぜたような、少し濃い顔で
思わず萎縮してしまう異様なオーラを持っていた。

「なんか良い人材おらんか?」
「できれば道やってた奴がいいなあ。剣道とか柔道とか」

気がついたら、そこの社員になることになっていた。
圧倒的なオーラの社長によく思われたい。
ついて行けば何か良いことがあるかもしれない。
すごく成長できるかもしれない。

「恐怖からじゃなく、何かのために仕事がしたい」
それができそうな場所がここのような気がした。

某大手N○○のボスに
「すみません、話があります」と呼び出し辞めることを伝えると

「え!そんなこと?てっきり出資してって言うかと思った」
そんな風に思ってくれてたことに驚き。
「ちなみに、参考までにいくらまでなら出すつもりでした?」
「300かな。最悪返ってこなくても、あげるつもりでいたから」

俺はついていく人を間違えたかもしれない。
でも自分の選択だ、上手く行かせれば正解だ。

新しい会社では、あの平山さんはもちろん織田さんもいた。

「おー!入社したの?マジで?すごいじゃん!」
相変わらずの織田さん

「入るだけなら誰だってできる、成果出さないと認めないからな」
相変わらずの平山さん

この時点でも、この会社が何をしているのかわかっていない。
二人に聞いても良くわからなかった。
「相手を喜ばせてお金をもらう仕事だよ。ユーゴくんならできるって!」
「お前、努力もせず聞いて済ませるつもりか?」

聞いたことを後悔した。こんな職場は初めてだ。
とりあえずは社長のカバン持ちということで
社長について回ることになった。

しめた!一番成長できるポジションだ。
「免許は?運転はできるか?」
目の前にあるのはベンツS500。

(これコスっただけで給料飛ぶんじゃないか・・・)
ビビりながら運転をしていると、つい道を間違える。

「何やってんだ!俺の時給いくらかわかってんのか!」
さらに萎縮してミスが増えてくる。
さらにイライラする社長。後ろから座席を蹴ってくることもあった。

負のスパイラルが始まる

ビクビクしすぎてミスを繰り返すので
これ以上の運転は危険だと1ヶ月で内勤になった。

これには内心かなりホッとした。
運転手はアポ先についたら車で待機なので
社長がどんな商談をしてるのかすら学べなかったからだ。

内勤では平山さんの資料作りのアシスタントになった。
「こんな感じでよろしいでしょうか?」
「ちゃんと考えたか?言われた通りだけやってるんじゃないだろうな」

なぜこの人はいつも威圧から始まるのだろうか。
ミスした時ならまだしも、基本的に威圧的に関わってくる。

「定時になったので、業務も無いので帰ります」
「仕事は自分で探すもんだ、そして帰るなら日報出せ」

もちろん日報なんて他の人は出していない。
フォーマットも存在しないので、見よう見まねで作る。

「できました日報です」
「おい、なんだこれは」
改善の指示を出され、改善して持っていくも、さらなる改善指示。

時計を見ると23:45、もうすぐ終電だ。
日報にかれこれ5時間費やしている。

軍隊のトレーニングで聞いたことがある。
「穴を掘れ」「できました」「よし埋めろ」
「できました」「じゃあまた穴を掘れ」
理由を説明せずに重労働させるトレーニング。

きっと何か意味があるに違いない。

修正した日報を出す「これでよろしいでしょうか?」
「お前さっきから何度も話しかけてくるけど、俺の仕事が進まないだろう!」

なぜか日報じゃない話題の説教まで始まる。
横目で時計を確認する0:24。・・・あ、もう終電ないや。
「おい!お前!俺が話してるのに何をよそ見してる」
「お前の相手をしていると時間がかかって仕事にならない!」

都会の真中で膝から崩れ落ちる

半年後、まったく別人になったユーゴがいた。
体重は激減し、顔色は悪く、存在感が薄くなっていた。

何を食べても味がしないので、刺激物を好むようになり
視野は狭く、明度も彩度も低く見える。
「世界が灰色に見える」というのは比喩ではなく実際に起こります。

自分がこうしている間に、社長はバリバリ成果を出していたようで
新宿の一等地にオフィスを移転(LOVEのモニュメントがある所)
社員の数も倍以上に増やしていた。

心を無にしてゾンビのように会社に向かう。
都庁に向かう長い遊歩道を早足で歩く。

「時間大丈夫かな?遅刻したらまた大変なことになる」
携帯を取り出し時間を確認する。

7:50。まだなんとか間に合いそう。
その時、ふと携帯のディスプレイに目が行った。

当時の携帯は待受アプリというのがあり
熊のキャラクターの『くーまん』が標準でついていた。
一定時間でくーまんが話しかけてくるのだ。

「くーまん、ユーゴが大好きでふ」

それを見た瞬間。
膝から崩れ落ちて泣いた。

何が起きたのか自分でもわからない。
大勢の人目があるにも関わらず
ただただ、声を上げて泣いた。

きっとこれがなかったら
いつか電車に飛び込んでいたかもしれない。

「もうムリなんです、殺すか、クビにするかしてください」

目の前で泣きじゃくる俺を見て
平山さんは「ついに壊れたか」と呟いて社長に報告に行った。

実力は『発揮率』が低いと成果が出ない

すごく印象に残っているやりとりがある。
「いや違うんです、以前なら簡単にできたんです!」
「じゃあなぜ今回できない」
「わからないんです、何か、何かがおかしいんです」
「お前は今まで自分を過大評価してだだけだ。結果が証拠だ。」

車の運転も、資料作成も、日報も。
普段の自分だったら並以上にはできたはずだ。
なのにここに来てから、ミスばかりが起きている。

心が折れた自分は、こんな答えを出した。
「そうか、過大評価だったのか。本当は自分は実力がなかったんだ」

さらに仕事ができなくなり、他人をイライラさせる。
そしてさらに萎縮して仕事ができなくなる。

どれだけ実力を持っていても
発揮率が下がると、誰も成果を出せなくなる。

この負のスパイラルにはまると
うつ・自殺が解決策に見え始める。

動物は生命維持機能があるので、自殺はできないようになっている。
でも、自殺することより現状が苦痛になれば
生命維持装置を使って解放(自殺)させることができるのです。

俺が会社を抜けた後、
他の社員も失踪が相次いで、誰も居なくなったと耳にした。

『発揮率』というこの概念。

当時、誰か1人でもこの概念を知っていれば
「なーんだ発揮率が下がってただけか、じゃあこうしよう」
って解決できていたかもしれない。

この概念を知らないがために
今もどこかの会社で不幸が起きています。

これから数年後、俺はこの概念を見つけ
『発揮率』のコントロールを広めることを心に誓うのです。
(まさに発揮率が下がっているという方、すぐ私に相談してください)

この当時は発揮率の概念を知らないユーゴは
またしばらくあのベッドで寝たきりになります。
第4話は哀れなユーゴに救いの手が!

■第4話に続く


ユーゴ物語
[第1話]どこで人生、間違えたのだろう
[第2話]1億5千万円の売上
[第3話]景色が灰色になった日 ←いまここ
[第4話]海外でホームレス?
[第5話]灰色の人生に彩りを
[第6話] 人生のパターン


 

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